
株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)では、45歳以上の社員を対象に社内公募で希望者を募り、地域へ出向するプログラムを実施。地域課題の解決に挑戦することで、社員一人ひとりの成長だけでなく、新たな事業や組織の可能性を広げています。今回は本取組みを推進した法人営業本部長の加治木さんに、実施背景や狙い、そして見えてきた成果について伺いました。
・お話を伺った方 :加治木 宏 さん
・部署/役職 :株式会社エイチ・アイ・エス 執行役員 法人営業本部長
「ピンチはチャンス」—— 危機のたびに変化を選んできたHIS
――今回の取組みはHISさんにとって前例のないチャレンジだったと思うのですが、きっかけは何だったのでしょうか。
HISは創業以来、何度も大きな環境変化に直面してきました。私が入社した2001年にはアメリカ同時多発テロがあり、その後もリーマンショックや東日本大震災、そして新型コロナウイルスの流行など、旅行業界にとって大きな転換点が何度もありました。
そのたびに私たちが大切にしてきた言葉が、「ピンチはチャンス」です。常に状況に応じて変化を続けてきました。しかし、新型コロナウイルスの蔓延時は世界各国で入国制限がかかる、これまでにない状況に陥りました。
そこで、”旅行以外の仕事をつくる”という発想が必要になったのです。自治体からのBPO事業など、新しい分野へ挑戦しました。旅行の仕事で培ってきた、現場を動かす力、人と信頼関係を築く力、お客様の課題を考える力は意外と活かせることに気づきました。
一方で、社員にとって最も難しかったのは、仕事内容ではなく、”仕事への向き合い方”を変えることだったと思います。これまで中心だった店舗営業では、お客様がご来店されご相談を受けるという受け身の営業スタイルでした。しかし仕事をつくる立場では、自ら現場へ足を運び、何に困っているのか、どんな課題があるのかを探し、自分から提案しなければ何も始まりません。

45歳以上だから難しいのではなく、45歳以上だからこそ活躍できる
――社内公募の対象は45歳以上の社員と伺いました。この年齢にした理由を教えてください。
地域創生など新しい事業に興味を持っている若い社員も多くいます。しかし、地域に入って限られた時間で最大の成果を出すには、社会人として積み重ねてきた経験が大きな力になると考えていました。行政や地域事業者との信頼関係を築き、予想外の課題にも対応しながら物事を前へ進めるには、自分で考えて判断する場面が多々あります。
その点、45歳以上の社員は、多くの成功も失敗も経験しています。さまざまな環境変化を乗り越え、お客様と向き合ってきたからこそ、“この状況ならどう動くべきか”を判断できる力があります。その経験は、新しい環境でも必ず生きると考えていました。HISにはお客さまのために尽力する文化が根付いており、彼らなら新たな挑戦の場においても力を発揮できると確信していました。
――”旅行以外の仕事をつくる”という新規事業創出には、経験を積んだミドル世代社員の活躍が必要だったということですね。
HISも昔はベンチャー企業で定年退職者もほとんどいなかったのですが、創業から年月が経ち、社員の平均年齢も上がってきました。会社が成熟して、ますます年齢を重ねた社員が増えていく中で、“その世代がどう活躍し続けるか”は会社として避けて通れないテーマです。そうしたベテラン層が活躍できる場を新たに作り、その成功体験が次の挑戦へとつながり、最終的に会社へ還元される仕組みを作りたいと考えました。だからこそ、まずは45歳以上の社員に手を挙げてもらい、新たな経験を積み重ねていただくことにしました。
――一方で、45歳以上を対象にすると、ネガティブな印象を持たれる可能性もあったのではないでしょうか。
募集開始時には、「年齢を区切ることでネガティブに受け止められるのではないか」という懸念もありました。だからこそ、説明会や動画配信、質疑応答などを繰り返し行い、これが活躍の場を広げるための取組みであるという趣旨を丁寧に伝えるようにしました。一方で、家族の事情などで参加を断念する人もいました。45歳を過ぎると、子どもの進学や親の介護など、仕事以外の事情も大きくなってきます。そのため今後は、参加しやすい近隣の地域を増やしたり、地元で親のそばで働くという選択をできるようにするなど、さまざまな施策を進めていきたいと考えています。

“企業・地域・伴走者”の三者が連携することで初めて成立する取組み
――新しい環境への挑戦を支える上で、大切にしたことは何でしょうか。
“やらされる挑戦”ではなく、“自ら挑戦したい人が手を挙げること”を何より大切にしました。新しい土地へ行けば、仕事だけではなく生活も変わります。知り合いもいない環境で、一から人間関係を築かなければいけません。
だからこそ、本人の意思が何より大切でした。もちろん苦労はあると思っていました。参加してくれているメンバーは、みんな“挑戦したい”という気持ちを持って手を挙げてくれた人たちです。だから私は、不安よりも期待の方が大きかったですね。
実際に出向して1年ほど経った人たちを見ると、もうHISの社員というより、その地域の一員になっているように感じます。自治体からも頼られ、地域の人たちとも自然につながっている。そういう姿を見ると、会社から送り出した人ではなく、その地域に必要とされる人になっているんだなと思います。
――1年でそうした成果につながった要因は何だったのでしょうか。
もちろん社員の挑戦する気持ちは大きかったと思います。ただ、地域には、それまで築いてきた人間関係があります。外からいきなり「今日からお願いします」と言って入っても、すぐに受け入れてもらえるものではありません。
その点で、さとゆめの存在は本当に大きかったです。地域との信頼関係がすでにできていたので、“さとゆめが紹介してくれる人”という安心感がありました。私も実際に地域へ行きましたが、さとゆめ代表の嶋田さんが歩いているだけで、あちこちから声を掛けられるんです。地域を知り、地域との信頼関係を持つパートナーが間に入ってくれたからこそ、社員は安心して挑戦できました。
――参加者の経験は、会社にどのように還元されると考えていますか。
地域の知識や自治体との仕事の進め方ももちろん身につきますが、一番大きいのは、仕事への向き合い方のように、どこでも活かせるポータブルなスキルが身についたことだと思います。
自治体事業に携わることは、一つの分かりやすいキャリアではありますが、その経験を持って旅行商品の提案をするのか、新しい事業を考えるのか、それとも別の仕事へ活かすのか。それは本人に判断を委ねています。会社としては、その経験をいろいろな形で還元してもらえれば、それだけで大きな価値があります。
今では“こういう地域ならこういう進め方ができる”“この課題にはこういうアプローチができる”というノウハウが少しずつ会社の中にも蓄積され始めています。最初の一歩を踏み出した人たちがいたからこそ、次に挑戦する人は、その経験を引き継ぐことができます。こうして会社の財産になっていくことが、この取組みの大きな価値だと思っています。

会社が活躍の場をつくることは、人材戦略の一つ
――最後に、同じような課題を抱える企業や人事担当者へメッセージをお願いします。
他社の人事の方と話をすると、役職定年やキャリアの停滞感、モチベーションの維持、人員配置の最適化など、多くの企業が同じ悩みを抱えていると感じます。人事担当の方でも「悩む社員を支援したいけれど、やり方がわからない」と最初の導入が難しいと感じていらっしゃると思われます。時代の流れとしてもリスキリングへの注目が高まっています。 だから私は、一度やってみることが大切だと思っています。もちろん45歳という年齢で区切ることへの懸念もありましたし、新しい土地で本当に活躍できるのかという心配もありました。しかし実際には、自ら手を挙げた社員たちは期待以上に成長し、それぞれの地域で必要とされる存在になっていきました。実際に挑戦して初めてわかることがたくさんあると思います。
※サービス内容やお話を伺った方のご担当部署・役職などの情報はインタビュー当時のものとなり、現在とは異なる場合がございます。

| 社名 | 株式会社エイチ・アイ・エス |
|---|---|
| 業種 | 旅行業等 |
| 従業員数 | 連結10,000名以上 |



